法人成りのメリット・デメリット・タイミングを考えてみる。

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「売上5,000万超えたら、法人にした方が税金安くなるって聞くけど、どうなん?」
個人事業主の方からよくある質問です。
そんな感じで簡単だといいんですが、実際は色々と複雑に絡み合いややこしいです。
今日は、法人成りのアウトラインを少し覗いてみたいと思います。

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法人成りのメリット

給与所得控除の活用

やはり、真っ先に上がってくるのがこれですね。
個人事業主は自分にお給料を支払うことはできませんでしたが、法人を設立すれば役員報酬としてお給料を支払うことができます。個人と法人は全くの別人格なので、給料を支払っても大丈夫なわけです。

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上記の例では、個人事業主は所得800万に対して税金がかかります。
(もちろん青色申告特別控除や基礎控除などの所得控除が引かれた後に税率をかけます。)

一方、法人では個人事業主では所得として利益が出ていた800万を、役員報酬で支払うようにすれば、法人の利益はなくなるので税金がかかりません。
(赤字でも負担のある法人住民税の均等割りが、7万程度かかってきます。)

ただ、法人では役員報酬という給料を個人に支払いますので、個人の方で今までの事業所得ではなく給与所得という新たな所得が発生します。この時に給与所得控除を給与から引くことができるので、課税ベースが圧縮されることになります。

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例えば、平成28年度で年間800万のお給料を支払った場合には、下記の給与所得控除を給与から引くことができます。

・8,000,000×10%+1,200,000=2,000,000

つまり、給与800万から給与所得控除200万を引いた600万に対しての課税になるので、
個人での税負担が軽減することになります。

所得税率等と法人税率等の違い

単純な税率の違いの差も税負担の軽減につながってきます。
所得税は所得が上がるごとに税率も上がっていく、超過累進税率です。
これに加えて、個人住民税が一律10%、一定規模以上では個人事業税が5%程かかってきます。大まかにいえば、15%~60%の間での負担になります。

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一方、法人税は所得税程段階的には区分されていません。
法人税の税率の方が最高税率は低いことがわかります。

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なお、法人では法人税以外にも地方法人税、法人住民税、法人事業税などの税負担があります。これらを合わせて、中小企業の法人税等の実効税率は30~35%あたりに落ち着くものと思われます。

「所得税関係の税率 > 法人税関係の税率」という形になる場合には、
法人の方が税負担が低くなるため、単純に有利だということです。

消費税の免税事業者期間

消費税は免税事業者であれば、納税義務はありません。
その納税義務の判定ですが、簡単に言えば2期前の課税売上高が1,000万円を超えているか否かでおこないます。

法人を設立すれば、法人としての2期前は存在しないため免税事業者になります。
結果、法人での1期目、2期目が免税事業者になるので、その分消費税負担を回避することができます。
(期首の資本金が1,000万円以上である場合、その他一定の場合には課税事業者になる場合があるので注意が必要です。)

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法人成りのデメリット

登記費用、その他の費用がかかる

個人事業主は、事業を始めるときに登記をする必要はありませんでした。
しかし、法人は登記が義務付けられているため、この費用が発生してきます。
司法書士への報酬、登録免許税など30万程度の費用負担が発生します。

また、法人に変わることによって、印鑑を作ったり、封筒やチラシの刷り直しなど
細々した費用が発生してきます。

また、私たちの税理士報酬も大抵は値上がりすることになります。
これは、法人の方が提出しなければいけない資料も多く手間がかかることと、個人に比べてより精度の高い会計処理、税務処理が要求されるためです。

社会保険への強制加入

法人は社会保険の適用事業所として強制加入が義務付けられます。
個人事業主で従業員が常時5人未満で社会保険に加入していなかった場合でも、
法人になれば社会保険に加入しなければなりません。

社会保険は労使折半で、法人と従業員が半分ずつ社会保険料を負担します。
人件費の約15%程度が社会保険料の法人負担となりますので、今までに比べて人件費が15%増しになると考えなくてはいけません。結構大きな負担になるところです。

特に個人事業主では、従業員が5人を超えていても社会保険に未加入な場合も多いです。
従業員が多ければ多いほど、社会保険に加入した時の負担は重くのしかかってくることになります。

税務調査の可能性

税務調査は、個人事業主よりも法人の方があたる頻度は高いです。
やはり法人の方が相対的に規模も大きくなり、所得も大きくなるためです。
また、法人を過度な節税目的で使うなど、そういった部分も含めて税務署の目が光ってきます。

もちろん、きちんとしていれば税務調査があっても問題にはならないので、完全にデメリットというわけではありません。
ただ、税務調査が入って気分的に喜ばしいと感じる方は、あまりいないのが現実でしょう。

法人成りのタイミング

上記にあげたメリット、デメリットはほんの一部です。

法人では生命保険を経費として上手に活用したりもできますし、何より信用力は個人の時よりは上がる可能性が高いので、資金調達なども行いやすくなるでしょう。

一方、法人では交際費は全額経費にならなかったり、役員変更の度に登記費用がかかるなど、細かなことは色々と出てきます。

まずは、個人事業主が法人成りする段階として、上記のおおまかなところで有利・不利の判定をシミュレーションしてみるのが良いかと思います。

次に、上記の設立費用や社会保険の負担に加えて、法人としてのルールの厳しさ(例えば役員報酬の金額の決定においても合理性が求められますし、報酬額の変更も好きな時に勝手にはできません。)などがあることも、頭の片隅には入れておかなくてはなりません。

個人での課税所得が1,000万に到達するくらいであれば、そこそこの規模にもなっている可能性が高いです。税率などの面も踏まえて、法人成りのメリットを実感し易いタイミングなのではないかと思います。

また、先延ばしにはなりましたが、消費税は将来税率が上がっていくことが予想されます。免税事業者を狙うのであれば、税率が上がった時点で法人成りするのが賢い選択だと言えます。(将来、免税事業者制度が廃止の可能性も無きにしも非ずなので、一概には言えませんが。)

ザックリまとめてみましたが、やはり個人事業主の状況によって、また、税制その他の環境の変化によっても、最適なタイミングは変わってきます。
「法人として頑張ってやっていく!」という熱意があることも重要でしょう。
雰囲気で法人にする前に、色々と検討することをオススメします。

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【編集後記】
今日は午前中に準備ができなかったので、晩遅くの更新となりました。
やはり、午前中にはアップするのを心掛けたいものです。

【昨日の一日一新】
・旬味 やま川 鶏肉の塩麹焼き弁当

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